課長、サインを下さい！～溺愛申請書の受理をお願いします。
　それから気付くと柴原美弥子のことが目に入ってくるようになった。
　
　黒縁眼鏡に一つ結びの髪、落ち着いた色のスーツ。
　それが彼女のいつものスタイル。　
　　
　他の若い子たちと比べると格段に地味だ。
　この会社の総務課には制服は無いので、大抵の女性が今どきのオフィスカジュアルに身を包んでいる。
　でも、彼女は柴原はいつもスーツ。
　髪を結んでいるゴムにすら飾りもなにもない。
　
　そんな地味な柴原だが、仕事は他の誰よりも早くて正確。その上こちらの要求以上のものに仕上げてくる。
　そのくせ彼女はそれが至極当然であるかというくらい自然にこなして、誰かに不平を言ったり自分の成果を自慢しているところを見たことがなかった。
　
　注意深く見ているうちに、彼女は仕事が出来るだけでなく、オフィス全体を良く見ていることに気が付いた。
　細かい気配り。先回りの動き。

　ハッキリ言ってこの職場に埋もれさせるなんて勿体無い。
　彼女がもっと実力を発揮できる場所が、他にあるんじゃないだろうか。

　俺は最近はそう思うようにまでなっていた。


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