課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 コホン、と一度咳払いした課長は

 「悪戯じゃないとして…お前は俺と結婚したいってことか?」

 「はい。」

 「なんで俺と…そもそもまだ若いお前ならほかにもっといい相手がいるんじゃないのか?」

 「私にそういった相手はおりません。」
 
 「合コンとか行けばいいじゃないか。」

 「めんどうなんです。」

 「…は?」

 「今更私の歳で合コンに参加したところで若い子たちに煙たがられるだけです。更にこの歳になると、明らかに結婚に焦っているように見えるようで、寄ってくる男性もいません。寄って来たとしても一夜限りの相手として見ているのは明らかです。なによりそういった場は疲れるので、出来たら遠慮こうむりたいですね。」

 立て板に水、と言うようにサラサラと理由を述べている私の前の課長の目は丸くなっている。

 まぁ、丸いといっても半月くらいかしら。

 その彼は「は~、」と盛大に溜め息を吐きだして、長めの前髪を掻き上げた。

 「で、なんで俺?こんなおっさんに結婚を申し込まなくても、もっとましなのいなかったの?」

 「いつも部下のどんなお願いでも二つ返事で承諾していらっしゃる課長なら、わたしのこの『お願い』もきいていただけるかと。実際さきほど『いいぞ』とおっしゃいましたよね。」

 「いや、それは…」

 「男の二言は、受け付けませんよ?」

 眼鏡のフレームを人差し指で持ち上げて、ニコリを微笑んだ。
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