課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 私の抗議を無視して、しばらくその唇を味わった雄一郎さんがやっと離れた時、私の息はすっかり上がっていた。

 肩で息をしながら彼を睨み上げると

 「す、すまん、つい…」

 いつもよりも何倍も素敵な恰好の彼が、子犬が耳を下げて項垂れているように見えて、思わず「ぷっ」と吹き出してしまう。

 「体調が悪いんじゃなかったの?」
 
 「いや、体調は悪くないぞ。」

 「じゃあ、どうしたの?」

 「ああ…その、なんだ…」

 突然モゴモゴと言いにくそうにしているので、ちょっと強めに尋ねてみる。

 「雄一郎さん、言ってください。」

 「…美弥子がいつにもまして綺麗だから今すぐ抱きたくなった。」

 思ってもみなかったことを言われて、カーっと頭に血が上る。きっと顔が真っ赤になっているに違いない。

 何てこと言うのかしら、この人は…。

 困った顔で見上げていると、

 「でも、今からは無理だから『具合が悪い』だろ?」

 眉を下げ小首を傾げてそう言った。その顔には、「実に不満だ」と書いてある。

 「今日は大事な『決戦の土曜日』だからな。」

 言いながら気持ちを立て直したのか、彼は真剣な表情で私を見つめる。

 「ええ。頑張るわ。」

 頷き合ってから、私を抱きしめていた腕を離した雄一郎さんに、

 「雄一郎さん、そういう格好も似合うのね。とっても素敵。」

 すこし頬が赤らむのを感じながらそう言うと、彼はガクッと項垂れて手で顔を押さえながら

 「だ~か~ら~、今煽るなって!」

 と叫んだ。





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