国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました

 部屋を出ると、キッチンへ行く。途中、窓からマリエが洗濯物を干しているのが見えた。ベッドカバーやシーツ等、大きなものはすっかり乾くだろう。

 小鍋で水を沸かし、積んできたミントを千切って入れる。ヴィリヨは濃い目に作るほうが好きだから、ミントをたっぷり使う。

 お茶と一緒に昼食となるパンも添えることにする。食べ残してもいいように、バスケットに入れてナフキンをかけた。バターと、栄養価の高い蜂蜜も一緒に。蜂蜜の残りを見てちょっとため息をついたノエリアだったが、気を取り直して瓶を棚に戻す。

 お茶とパンをヴィリヨの部屋に届けてキッチンへ戻ると、洗濯物を干し終わったマリエが戻ってきた。

「今日は洗濯物、よく乾きそうね」

「物干しにかけているそばから乾いていく感じですよ。……あ、いい香りがしますね」

マリエは鼻をひくひくとさせ、テーブルにあったティーセットに視線を向けた。

「ミントティーを作ったの。お兄様にパンと一緒に届けてきたから、わたしたちも昼食にしましょうか」

「すみません。お嬢様にお任せしてしまって」

「気にしないで。さ、お腹が空いたでしょう」

 マリエがダイニングにティーセットを運んでくれた。ノエリアはパンを切り、香りがよく消化を助ける作用のある薬草を乾燥させたものを刻んで、バターに混ぜたものを添えた。

「夕食にはカボチャのスープを作りましょう」

「ノエリア様が今朝収穫してきた野草から今夜の分と、塩漬けの分を分けておきますね」

「そうね。夕食の準備を優先に、作業は明日にしましょう」

「そういえば、郵便屋がついでと言って新聞も届けてくれたのですが、読みました?」

 時々来る郵便屋が優しい男性で、頼んでもないのに、自分が読んだあとだからと新聞を置いて行ってくれる。マリエと同年代だったと思う。ノエリアが見る限り、おそらく彼はマリエに気があるのだ。そして、マリエも悪い気はしていないらしい。時折、玄関や畑で立ち話をしているところを見かける。

「なにを笑っていらっしゃるのですか……」

「ううん。なんでもない。それで?」

 カップにミントティーを注ぐと、爽やかな香りが立つ。ひとくち飲むと、口の中がすっきりし喉が潤った。

「国王陛下が大規模国境警備を行っているらしいです」

 ドラザーヌ王国の若き国王、シエル・リンドベリ。ドラザーヌ王国は大国ではないものの国内は比較的安定し、裕福な国である。ヒルヴェラ家が貧乏なだけ。

 一年に一度、視察などを兼ねて大きな隊を編成し大規模国境警備を行う。

「時期的に、いまがいいかもね。冬場にやったら死人が出る」

「まぁ、お嬢様ったら物騒なことを」

 冬場に山を歩くなんて自殺行為だからだ。冬が厳しく山が多い王国に住んでいるなら知っているべきだし、国王ならば尚更。

「剣技と戦略に長け、黒髪と緑の瞳という外見から『黒き狼』と言われていますね。未だ独身なのでお妃選びをなさっているでしょう。冷静かつ冷酷だと聞くし……」

 さして興味無さげに、ノエリアはパンを齧った。

「国を治めるならば、冷静と冷酷さは必要なことなのかもね。あと、隻眼だと聞いたけど」

「お兄様がいましたが亡くなっており、本人は少年時代に怪我をなさったとか。隻眼はそのせいで」

「詳しいのね、マリエ……」

 郵便屋からの情報だろうか。やたらと詳しいマリエだった。ノエリアはあまり王家に関して興味がなかったので流して聞いていた。

「お小さい時分に、苦痛と悲しみを味わったのね」

 ここまで流れてくる情報なら、ほとんどの国民が知るところなのだろう。

「それならば、苦労を知っている国王だなと思う。なんにしろ、国を守ることは国王に任せるし、わたしたちは食べ物のことを心配したい」

 内容は別として、ティータイムのおしゃべりである。

「来週、村の薬局に納品するものだけれど……」

 ふたりの話題が変わり、お茶は二杯目に突入した。
 女同士のおしゃべりは弾み、横で寝ている猫のハギーは大きな欠伸をしていた。


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