無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
駿太郎は内心ではかなりイライラしていた。小学校三年生の時、体育の授業中に怪我をしてからスポーツ全般が嫌いになった。

熱血体育会系の両親と兄、妹に囲まれ、運動が得意でなかった駿太郎は家庭にも居場所がないと感じていた。

もしかしたら自分だけがこの家族と血が繋がっていないのでは?と戸籍や母子手帳を調べてみたが、疑うような事実は出てこなかった。

ラグビーをする父、バレーボール部でエースをはる母と妹。サッカーでユースから活躍する兄。

駿太郎だって、小学校三年までは兄と共にスポーツ少年団に入るなどやる気も見せていた。

しかし、体育の時間に、無理やり取れそうもないボールを求めて相手コートの生徒に突っ込んでいき、自分は手の骨折。相手は顔面挫傷。

あの時の相手生徒の親の怒りと、ひたすら頭を下げる駿太郎の両親のうなだれた様子が頭から離れない。

それからというもの、駿太郎は球技全体、いや団体競技全てが嫌いになった。

兄妹に負けたくないと、勉強や芸術関係に力をいれた。だからこそ、特に好きでもないデザイン学科に入ったのに,,,。単に一番得意なことだったから。

駿太郎にとって、仕事は自由を手にする手段だった。家族と違う分野で一人で奮闘するのは気が楽だった。

親、兄妹と比べられないなら、インテリアの商品開発で他人に追い越されようが、出し抜かれようがどうでもいいことだった。

家で本を読み、音楽を聴いて寝る。アイドル顔負けのルックスも自分にとっては意味がない。評価されるのは外側の自分ばかりで、中身は伴っていないのだから。

そんなこんなで無難にやってきたつもりなのに,,,。親父は何が気に入らないのか、駿太郎の得意なインテリアデザイン関係の仕事から、苦手とわかっているスポーツ関係の仕事に部署異動した。

しかも、同じ年の同期の女性が指導にあたるという。全くもって面倒くさい。

伊藤彩月は同期入社だ。健康的に日焼けした肌と髪。ポニーテールにした髪は、その名に違わず、いつも尻尾が跳ねている。

体育大学を卒業し、希望でウイングライフスポーツに入った彩月は、研修中もグループをまとめる役だった。

俺の家族と同じ匂いがする。同類だ,,,。駿太郎は、彩月の魅力に惹かれながらも、劣等感を刺激されないように無関心を貫いてきたのだ。

なのに,,,。

笑顔の彩月は、何も考えてませんというようにオリエンテーションを続けている。

"親父の思惑はなんだ,,,?"

平穏な日々の終了を自覚して、駿太郎は溜め息をついた。
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