神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?

先生が好き。

大河だけじゃない。

名前も知らない、
どこにいるのかもわからない、夢の中のあの人が、

愛しくてたまらない。

それが凪紗なのか、梨佳なのかは、もうわからないけれど、そんなことはどうでもよかった。

大河を裏切っている事実に、変わりはないのだ。


「……先生って、…高橋先生のこと?」


やっぱり聞こえていたのだと、失望しながら、梨佳は首を横に振る。


「…違う」

「絶対に渡さない…」

「好きなのは大河だけだよ」

「……嘘つけ」


言葉がすれ違う。

何処にも、
何も届かない。

それでも、最後までこの嘘はつき通さなくちゃいけない。

梨佳にはわかるのだ。

梨佳が大河を嫌いになったくらいで、梨佳に他に好きな人ができたところで、

大河は梨佳を絶対に手放したりしない。

自惚れでも何でもなく、事実だ。

だから、心を置いていく。


「今も、ずっと…、これからも、大河以外の人は好きにならない」


大河のことを好きだという、梨佳の心の全部を大河に置いていく。

そのかわり、抜け殻の自分の体が、大河から離れることを許してほしい。


「だったら、なんで離れるんだよ!ワケわかんないだろ!ウソでも何でもいいから、嫌いだって、そう言えばいいだろ!」


大河は梨佳の両肩をつかむと、勢いよく自分から引き離す。

真正面に、偽りなく、梨佳を見つめる。

梨佳も大河から目を逸らさない。


「そんな嘘、つけないよ…」


大河に捕まれた肩が鈍く痛む。

その痛みすら、こんなに愛しいと思う。

その愛しさにのぼせてしまわないように、梨佳は必死に声を振り絞る。
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