臆病な背中で恋をした
4-1
「・・・・・・り、明里!」

 ナオの声にはっとして。見れば小さなバケツからは、ぬるめのお湯が溢れ流れていた。

「なにボケっとしてんだよ? もったいねぇだろ」

「あ、ゴメンゴメン」
 
 慌てて洗面台の蛇口をひねり、止める。

「チャッチャとやらねぇと、大掃除終わんねーぞ?」

「はぁい」

 勝手に坂を転がるみたいに、あれよと言う間に仕事納めの日が来て。27日から会社はお正月休みに入った。
 大晦日の今日は朝からナオが張り切って、この寒い中で網戸を洗ったり、物置の片付けをしたり。
 お父さんは洗車、わたしにはグルニエの掃除が言い渡され、明日帰って来るユカはちゃっかりしたもので。

『早く帰ってもナオちゃんにこき使われるだけだし。あかりちゃん、がんばって~』

 ファイト!って、絵のスタンプと一緒にラインが送られてきてた。末っ子は羨ましいぐらい要領がいい。

 雑巾と一緒に、キレイなお湯に入れ替えたバケツを持って2階へ。
 4LDKの我が家は上の3部屋がそれぞれの子供部屋で、下のリビング脇の和室が、お父さんとお母さんの部屋だ。
 階段を上がって突き当たりにハシゴが掛かるようになっていて、ちょうどわたしの部屋の天井裏が収納小屋になってた。
 使わない食器だとか扇風機だとか、出し入れする頻度が少ないものが仕舞われてるスペース。ベタだけど、お母さんが大事に取っておいてくれた3人の子供達の想い出の品なんかもあって、毎年つい片付け中に道草をしてしまう。特にアルバムは。お母さんと一緒に写ってたり・・・亮ちゃんが写ってたりするから。

 無意識に呟きが漏れる。

「・・・・・・亮ちゃん・・・」

 胸の中の靄(もや)は、日が経つごとに薄れることなく広がってくようで。これから先、自分はどうしていくべきなのか惑って・・・迷っていた。
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