臆病な背中で恋をした
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 手塚家で一番の早起きは、溶接工歴ン十年のお父さん。次にナオ、そしてわたし。
 ユカは看護師の学校を卒業して、今年の春から正看護師として病院勤務が始まった。家から通うのは大変だと寮に入ったから、ちょっとだけ寂しい。
 十年前に、心不全で亡くなったお母さんも看護師で。ユカは口には出さなかったけど、同じ道を選んだのは思うところがあったんだと思う。

 わたしの2つ下のナオは医療機器メーカーの営業だ。それもやっぱりお母さんの影響なんだとしたら、長女の自分はどこか立つ瀬がない。残業が少ないとか、家から遠くないとか、志望動機の本音はソンナモノだった。


「明里、トマト先に詰めるな! 肉巻き入れて冷めてから入れろって!」

 料理も掃除も一番手際の良いナオは、3人分のお弁当のおかずを毎朝作ってくれている。わたしとお父さんは、それを食べたい分だけ自分のお弁当箱に詰めるだけ。

「あ、オイ、肉巻きばっか詰めるなよ親父っ」

 小姑みたいなナオのお小言を二人して、『ハイハイ』って聞き流しながら。


 7時半にお父さんがスクーターで出かけ、わたしとナオは8時に家を出る。駅まで15分ほどの道のりを一緒に歩いて、改札入ってお別れ。

「明里、気を付けてけよ?」

「ナオもね!」

 手を振りあって別々のホームに。 



 11月に入って、やっと肌寒さを感じるよう。それでもコートはまだ薄手で足りる。ナオなんてスーツだけで出勤だ。
 うちの会社は女子社員にはリボンタイの制服が支給されるから、通勤時の恰好は自由だし、着回しても割りと気付かれなくて助かる。

 渡る風が少しだけ強い。
 耳にかけたショートボブの髪が揺らされる。

 電車を待ちながら。
 今日は亮ちゃんに・・・会えるかな。 

 おみくじを引くみたいな期待を込めて。
 

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