臆病な背中で恋をした
 先付から始まった、芸術品のような盛り付けのお料理を堪能しながら。真下社長は、わたしと亮ちゃんの子供の頃のことをあれこれと尋ねる。
 話せば切りがないし、ところどころかいつまんで話す内に思い出が鮮明になって来て。亮ちゃんが家を出たのが、ついこの間のことのように思えたりした。

「・・・うちは共働きでお母さんが看護師だったんです。忙しいと帰って来られないし、それで亮ちゃん家でご飯たべたり、ずっとお世話になって。夏休みとか長いお休みなんて、どっちがどっちの家の子か分からなくなるぐらい、一緒にいました」
 
 懐かしさに自然と笑みがほころぶ。

「だから亮ちゃんは家族以上に家族って言うか・・・。すごく大事な宝物というか・・・」

 言葉なんかじゃ言い尽くせない大切な存在。わたしにとって。

「それは一生変わらないんです。たとえばお互いに別の人と結婚して、それぞれの人生を歩んだとしても・・・。死ぬまで忘れられない人です」

 最後に出された柚子色のシャーベットをじっと見つめる。

「・・・・・・でもまた逢えたので。もう離れないと思います」

 わたしは自分に言い聞かせるように、ぽつんと呟いた。
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