臆病な背中で恋をした
6-3
 ホテルを後にして。お正月休みに会った時と同じ黒い車で、見知らない街を静かに走り抜けていく。途中コンビニに寄り。助手席にわたしを残したまま、わりと大きなレジ袋を提げて戻った亮ちゃん。そこから更に30分くらい走り、着いたのは、とあるマンションの地下駐車場だった。

 暗くて周囲の景色はよく分からなかったけど、往来のある通り沿いに建っていたように思う。降りた亮ちゃんの後を慌てて追いかけ、駐車場から直結したオートロック式の入り口から中へ。乗り込んだエレベーターのボタンは11階が押されてあった。

「こっちだ」

 背中で重そうに扉が閉まる音を聴き、共用灯に照らされた廊下を少し歩く。ライトグレーのタイル張りの外壁はそれほど汚れてもくすんでもないし、玄関ドアやモニターホンも今どきのデザインに見える。築浅の分譲マンションらしい印象を持った。

 1108と表札プレートが取り付けられたドアの前で亮ちゃんが立ち止まり、上着の内ポケットから取り出したカードキーをハンドルにかざす。その動作で鍵が開いたのを見て、変なところに感動した。

「・・・お邪魔します」

 入って最初に目についたのは。濃いめの花梨色で統一された扉と床。ベージュがかったクロスが全体の雰囲気を和らげている。突き当りのドアの向こうがリビングダイニングになっていて、ソファやテレビ台なんかは、モノトーンで揃えられていた。余計なものが何も置いていなくて、あんまり生活感が見当たらない空間。

「適当に座っていろ」

「あ、うん」

 キョロキョロと見回してから、カウンターキッチンの向こうで何やらガサガサしている亮ちゃんに思わず訊いてしまう。

「亮ちゃん、ここに住んでるの?」
 
「寝に帰るようなものだがな」

 なんだろう。なんか。
 生活することにまるで執着がないような。ただの箱みたいな部屋。寛ぐとか落ち着くとか、そういうものは何も求めていないみたいに。

 脱いだコートを畳んでソファの端に置き、自分も腰掛ける。
 エアコンが効いてきて、今は温かみを感じているけど。足を踏み入れた瞬間の寒々しさは、生気を感じない人間の世界じゃないところに迷い込んだ気がした。

 ここには。わたしの知らない亮ちゃんがいる。
 わたしが触れている亮ちゃんは、ほんの外側。
 過ぎた時間の分だけ。

 そう分かってしまうことは少し寂しくて。・・・心許なかった。
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