一途な御曹司に愛されすぎてます
「私のこと騙したんですね?」

 精いっぱい怖い顔をして睨む私を気にする風もなく、彼はグラスに少量注がれたワインを白いナプキンにかざして、平然と色合いを確認している。


「人聞きの悪いことを言わないでくれ。いつ俺が『キミのために貸し切りにした』と言った?」


「車の中で言っ! ……言って、ません、でしたね」


 よく思い出してみたら、たしかにそうは言っていなかった。彼は貸し切り状態だという事実を言っただけだ。

 ぐうの音も出なくて黙り込む私に、階上さんが極上の笑顔を見せる。


「だいたい俺は、自分の立場を利用して便宜を図るような公私混同はしない」


 ……周囲の反対を押し切って私をロイヤルスイートに泊めた当人が、どの口でそれを言いますか?

 って言ってやりたかったけれど、泊まった張本人の私が言うのもおこがましくて、寸でのところで踏み止まった。


 本当に油断がならない人だ。

 あのときだって、豪華なロイヤルスイートルームという先制パンチで私を混乱させて、その隙にディナーの約束をとりつけて。


 お酒に酔ったふりして迫って、私の気持ちに探りを入れて手応えを感じた途端、今度は誠実で実直な専務に早変わり。


 私がホテルを去って一ヵ月の間なんの音沙汰もなかったのに、いきなり衝撃的な再登場。
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