あなたへ


ふとんくんはあれから、このお店の雰囲気が気に入ったのか、週に1度足を運ぶ。


会うのはこれで2回目だ。


周りのみんなが私の名前を呼ぶ為、ふとんくんも覚えたらしい。


物覚えが良い…。


「今日もお店のお手伝い?偉いね」


着替え終わり、頼まれた飲み物を運ぼうと歩いていると、案の定ふとんくんの席にたどり着いた。


お母さんはふとんくんが頼んだ物を大体私に運ばせる。


ライブの日、寝る前につい、お母さんに今日来たのはふとんくんだと口を滑らせてしまい、今に至る。


「まぁ…ちょっとした親孝行です」


そう言い飲み物をふとんくんの近くに置く。


親孝行なんて、嘘に近い。


少しでも良く見てもらいたい。オタクだと気付かれたくない。


そんな思いでつい言ってしまう。


「そっか、親孝行か。偉い偉い」


ニコニコ笑いながらふとんくんは私と話してくれる。


「今日はパソコン持ち込んでるんですね」


つい口が滑ってそんな事を聞いてしまった。


絶対お仕事関係の奴だよ…。


「あぁ、うん。作業が家だと進まなくてね。気分転換にここ来ちゃった」

「そうなんですか」


来ちゃったって言うの、可愛すぎる…


など内心思いながらなるべく顔に出さないようにポーカーフェイスで話を続ける。


「そういえば、お母さんから聞いたんだけど、あの時誕生日だったんだって?」

「えっ…あ、はい」


突然何を言い出すのかと思ったら、誕生日の事だった。


「遅れちゃったけど、誕生日おめでとう」


そう言い微笑むふとんくん。


「………ありがとう…ござい、ます…」


やばいやばい。


顔がにやけてしまう。


私は今日死ぬのでしょうか。


抑えろ、私。


「そ、それじゃ、邪魔しちゃ悪いので失礼しますね」


そう言ってスタスタと立ち去る私。


背後から


まだ居てもいいのに。


なんて言葉が聞こえたのは


きっと幻聴。
< 31 / 84 >

この作品をシェア

pagetop