あなたへ

ここの喫茶店は比較的自由だ。


お客様のほとんどが常連客のため、従業員とも仲がいい。


その為お客様とお話するのも1つの仕事らしい。


私はバイトという事もあり厨房にはあまり入らない。


だからか、よくお客様から話しかけられる。


今日話し掛けられたのはふとんくんだ。


「瑠梨ちゃん」


掃除をしようとモップを持って表に出た私を見掛けたふとんくんは、すぐに話しかける。


正直言って名前を呼ばれる度に舞い上がってしまうのはふとんくんだからだろう。


「はい、なんでしょう」


そう言いながら近くまで寄る。


「ここのラテアートって可愛いね」


メニューを見ながらそう話すふとんくん。


「それ作るのほとんどお母さんなんですけどね」

「お母さん器用だね?じゃあ瑠梨ちゃんも器用なのかな」


冗談なのか本気なのかよく分からないトーンで話し続ける。


「私は…そういうのはちょっと…」


ここで見栄を張って器用です。なんて言ったら痛い目を見る気がした。


「そうなの?瑠梨ちゃんのラテアート、飲んでみたかったんだけど」


うっ…。


「じゃあ、練習します!」


欲に目が眩んだ。


自分が作ったものを好きな人が食べる。


なんて素敵なんだ。


「ほんと?楽しみにしてる」


嬉しいのか無邪気な笑顔を見せる。


明日を生きる理由を見つけた気がする。


「ふ…」

「…?」

「ふん…」

「???」


危ない。ふとんくんって言おうとした。


誤魔化し方も誤魔化し方である。


なんだ?ふんって。


う○ちか?


「お、お客様はどんな柄が好きなんですか?」


「僕?そうだな…」


どうやら、私がふんって言ったことに対してそこまで気にしてないようだ。


「動物が好きだから動物がいいなぁ」


ラテアートの絵柄についての質問だと察したのかそう答える。


「動物…なるほど…」


たしかふとんくんは猫が好きだった気がする。


よし、猫にしよう。
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