出稼ぎ公女の就活事情。
「……わい、騎士になりたかったんや」

 ようやくモンタさんが口を開いたのは、ずいぶんと時間が経ってからだった。

 部屋の中に照明の類はなく、天井近くにある横長の狭い明かり取りの窓から漏れてくる日の光だけが室内を照らしている。
 わたしが目を覚ました時はまだ燦々と明かりが差し込んでいて、わたしが気をはじめとする失ってからここで目覚めるまでそれほど長い時間が経っていないことを教えてくれていた。

 その日差しが、少しずつ陰り始め、部屋には位置によって薄い暗がりができ始めている。

 わたしとモンタさんは縄のくくりつけられた壁に背をつけて、二人並んで腰を下ろしていた。
 
 ちなみにわたしの両手はすぐに引き抜ける程度に緩めた縄の輪の中に戻してある。
 モンタさんの足の縄も同様に、よく見るとユルユルの状態だ。

「ずっとガキん頃からカッコエエなって憧れててん。……似合わへんやろ?こないなチビの猿が騎士やなんて。けどいつかは……って思うとった」

ーーけどな、とモンタさんは自嘲気味に笑う。

「わいが生まれたガルドやと、平民は騎士にはなられへんのや。田舎モンはそないな当たり前のことも知らんで、阿呆みたいに騎士になるて言い張って、小金貯めて、ようやっと成人して五年も経ってからでかい街に出て、そこで平民はどないに頑張っても騎士になんぞなれやせんってわかった」
「……それで、ルグランディリアに?」

 わたしが言うと、モンタさんは「うん」と小さく頷く。

「この国やと、平民でも成人さえしとったら騎士になれるって聞いた。せやからそっからまた小金を貯めて、商人の馬車に乗せてもろうてーーけどな」

 ギリ、と音がした。
 見るとモンタさんが歯軋りをしているらしい音だった。
 
「この国では確かに平民でも騎士になれる。軍に入って、訓練を受けて、認められれば。確かになれるんや。ただし、それはこの国の生まれのもんだけなんや」
「……でも」

 わたしは不思議に思う。
 戦争で一時的に雇われたり徴兵されなりする兵士と違い、騎士というのは国に絶対の忠誠を誓い剣を捧げる者だ。国によって違うが確かに自国の者しか騎士としない国というのはあるが。

「ガルド王国とルグランディリアでは身体的特徴の違いはまったくないでしょう?」 

 同じ獣人。
 獣の姿でも、人の姿でも身体的にはこれといった違いはないはず。
 髪の色にせよ、瞳の色にせよ、肌の色にせよ。様々な色を元々持つ獣人ではそれらで生まれを差別化は出来ない。

 貴族ならば戸籍がある。
 けれどどの国であっても平民にそういったものがあるとは聞いたことがない。

「それや」

 と、モンタさんは布が巻かれた手をわたしの耳元に向けた。 

「耳環ーーこの国では生まれた時に親が神殿で特別な耳飾りをもらう。親がおらんかったら村や町の上役、孤児院の人間が代わりにもらう。神殿で秘匿された製法で作られた熱で特殊な模様を浮き上がらせる金属で作られたもんをな」

 



 
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