朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】



「昔のご近所さん?」


「うん……あたしが引っ越す前の、家の方の……」
 

もう放課後で授業はないので、手近な教室に笑満と一緒に入った。
 

笑満は小学校四年のときに転校してきた。


それ以来ずっと、一番の友達だった。


今笑満は、出窓に体育座りをして小さくなっている。


「遙音くんは憶えてないと思ってたんだけど……あたしのこと、『笑満ちゃん』って呼んだ。あの頃みたいに」
 

そう言えば、私のことは呼び捨てにするのに、さっき笑満のことはそう呼んでいた。


流夜くんのことは『神宮』と呼ぶし、少し話した中でもみんな呼び捨てで、敬称愛称で呼ぶ人はいなかったように思う。


……笑満だけだ。


「でも、昔の友達なら、そうですって名乗ればよかったのに」
 

笑満が先輩をすきなことは承知している。


入学式からずっとそう公言しているから。

< 21 / 336 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop