演っとけ! 劇団演劇部
第1幕 演劇と入学と私
 冒頭からで申し訳ないけど、僕は至って平凡な高校生だ。
 正確には今日から高校生だ。成績も人並みの努力をして普通くらいだったから、有名校にも入れなかった代わりに治安の悪そうな高校に入らなくても済んだ。運動神経も悪いわけじゃないし、得意というほどでもない。中学のときはサッカー部でレギュラーだったけど周りも似たようなレベルだったから、試合に出られただけだ。動機だって『サッカーをしていればモテる』という在りがちなものでしかなかったし、実際サッカーをやっていてモテるには大したプレイができなくても主将になるか、生まれつき常人離れした美形でなければいけない。(つまりもう部活が何だとかあまり関係ない)そのことに気がついたのが卒業式でクラスのアイドル的存在だった女子に振られた時だったのでまともな恋愛経験もない。
つまり一言で言ってしまえば、僕は平凡でごく普通のつまらない高校生なのだ。
もっと正確に言うと、十日前から高校生だった。
入学式当日、僕は15年間の人生の中で一番重い風邪をひいた。体温が40度以上あがり蒲団の中でうなされていたらしい。らしいというのは記憶があまりないからだ。
そんなわけで、ごく普通の高校生であるはずの僕が少し遅れて入学するという少々普通ではない高校生活のスタートを切るところから物語は始まるのである。
「ああ、君が佐々木君? これ、読み方『エイト』でいいんだよね」
「はい」
 職員室に行くと、担任の山崎先生を紹介された。山崎先生の見た目は二十代前半で美人というよりかわいい部類に入る感じだけど、もうすぐ三十路らしい。らしいというのは自分から年を言わなかった山崎先生の隣にいた先生が茶化し半分で「おばさん」的な表現を使っていたからだ。
「それじゃあ、もうすぐホームルームだから一緒に教室行こうか」
 山崎先生が席を立ったところで、扉がガラッと大きな音を立てて開いた。
「3年D組相田大成、入ります!」
 扉の音に負けないくらいの大声で入ってきたのは、長身の赤い長髪の生徒でそのインパクトの強さに僕は呆気に取られていたが職員室のリアクションは、全くと言っていいほど無かった。
 ズカズカと中に入っていく相田という先輩が僕と山崎先生の前を通り過ぎたときに
「うわっ」と、勢い良く転んだ。
 転び方もわざとらしいくらい豪快だった。
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