優しい恋
季節は秋。
夜にもなるとひんやりしてくる。
どれくらい待ったかわからないくらい、体が冷えていた。

「山内さん、遅くなってごめん。」

「…飯田くん。」

小走りで寄ってきた飯田くんが、すまなさそうに頭を下げた。

「どこかお店に入っていればよかったのに。」

心配して言ってくれた言葉だとは思うけど、私にはそれがとても無責任に聞こえて腹立たしく、さっきまで考えていたことも相まって思わず口をついて出た。

「飯田くんはいつも仕事ばかりね。」

「…遅れたこと怒ってるのかな?」

「違う。」

「…じゃあ、なんだろう?」

なんだろう?ですって?!
自分の胸に聞いてみなさいよ!

そう言ってやりたいのに、胸がつまって言葉にならない。
言葉を選んで受け答えをする、余裕そうに見えるその姿さえ、今は腹立たしい。
いつだって飯田くんは、飄々と振る舞うんだ。
そうやって、子供じみた私の嫉妬を、大人な対応で返してくる。
私は悔しくて何も言えない代わりに、キッと睨んでやった。

飯田くんは、困ったなという顔をして私を覗き込んでくる。
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