ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
そのリクエストには応えかねる。

瑞樹はカレーが大好きだ。しかし、カレーばかりだと栄養が偏る。ここは心を鬼にして……と数少ないレパートリーを思い浮かべ、ちょっと頭を悩ませる。

「そうだ! カレー味のお魚さんにしようっか?」
「金魚、好き」

――いや、金魚は食べない。
きっと、近所の神社で見た春祭りを思い出したんだろう。あの時、瑞樹は金魚すくいに興味津々だった。

「金魚すくいじゃなくて魚屋さん」

あっ、と瞳が輝く。どうやら私の言うことが分かったようだ。
満面の笑みで私の手をグイグイ引っ張って行く。

向かった先は鮮魚コーナー。瑞樹のお気に入りの場所だ。
お目当てはここにある大きな生け簀。いつも数種類の魚が泳いでいる。

今日は……と水槽前の『今日の魚』と書いた掲示板を見る。

「鯵とカンパチ、それから穴子とカワハギかぁ」

どれどれと水槽を見る。

「瑞樹、あの銀色のピカピカが鯵とカンパチだよ。それから、ニュルッと長いのが穴子で、ひょっとこみたいなのがカワハギだって」

毎度毎度、私はこんなふうに瑞樹に説明する。おそらく理解していないだろう。でも、頭の片隅に何か一つでも残ればいいと思っている。

嬉々と水槽を見続ける瑞樹を横目に、私は店頭に並ぶ切り身を物色する。

ムニエルには舌平目が一番だが、そんな高級魚は買えない。ウーンと悩んだ末に瑞樹も好きな鮭にする。

「この特売生鮭を下さい」

三切れ乗っているから、残った一切れはフレークにしてお弁当に使おうとニンマリする。

昔の私とは大違いだ。本当に買い物上手になったものだと自分で自分を褒め称える。

それと同時に、考えなしに湯水のように使っていた昔の私を叱ってやりたい。
『お金は賢く使ってこそ価値ある物になるんだよ』とね。
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