俺様外科医の極甘プロポーズ
結局三十分ほど残業したが、予想よりも早く上がることができた。
「お先に失礼します」
「花村さん。残業、お疲れ様」
病棟を離れる前にあたりを見渡してみたが、先生の姿はなかった。緊急のオペの予定はないし、医局にでもいるのかもしれない。
私はロッカーで着替えると、洗面所でメイクを一度全部落としてからお出かけ用のファンデーションを塗った。
仕事中マスクをしているとどうしても寄れてしまうし、そもそも仕事中はほとんどメイクをしていないに等しい私にとって、こうすることが一番手っ取り早いのだ。
顔が出来上がると髪をとかし、イヤリングと先生からもらったネックレスをつける。
「よし、完璧」
自画自賛というわけではないけれど、今日の私はいつもよりもかわいいと思う。襟にファーのついたコートを羽織ると、通用口に向かう。その途中で晴也先生と出くわした。
「お疲れ様です」
軽く会釈をして通り過ぎようとしたけれど、先生はなぜか私に声をかけてきた。
「花村さん」
「……はい」
仕方なく足を止め、晴也先生の方を見る。
「今日は一段ときれいだね。デート?」
にやにやと不躾な視線を送ってくる晴也先生に嫌悪感がわいたが、私は笑顔で答える。
「友達と食事です」
「そうなんだ。楽しんできてね」
「はい。ありがとございます」
もう一度会釈をすると、話しかけられないうちに歩き出す。無事に病院の外に出ると、救急車が止まっているのがみえた。
私はそれを横目で見ながら、駅までの道を急いだ。
予約したお店は電車で二駅先のところにある。最寄り駅に着くと私はカフェで時間をつぶした。
先生からの連絡はない。でもきっと来るだろう。そう信じて疑わなかった。