俺様外科医の極甘プロポーズ

あんな女ははじめてだった。母親にすら叱られた記憶もなかったし、赤の他人に無条件で優しくされたこともなかった。

そう。俺はきっと彼女に甘えたかったんだと思う。心身ともに弱り切っていて誰でもいいから縋り付きたかったのだろう。もしかしたら花村を母親に重ねていたのかもしれない。

とんだマザコン野郎だと笑われるだろうが別に気にしない。男なんてしょせん、そんなものだ。

だから俺は、花村の看護師としての使命感と責任感に付け込んで、自分の世話をさせた。
俺の世話と家事を一生懸命にこなす彼女は本当に母親のようだった。疲弊した心も体も癒されていくのがわかった。

でもそれで好きになったわけじゃない。俺のために涙を流す姿を見て、立場が逆転するのを感じた。

俺は、きっと本能で彼女を守りたいと思った。いとおしさがあふれて自分にもこんな感情があるのだと驚いた。だから、あの夜。花村を抱いたのは俺の体ではなく心が求めたからだ。

拒否さえされなければ、俺のことを好きでなくてもいいと思った。必ず振り向かせる自信があった。

だから、この足が治っても花村のことを手放すつもりなんてなかったのに、彼女は俺のところに帰ってこなかった。
俺のせいだと思った。

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