そして、失恋をする
「彼女って、千夏のこと?」

かすかに震えた声で訊くと、目の前にいた千春は細い首を縦に振った。

『千夏とは、ここで別れて。彼女はもう長く生きれないし、陸君が悲しくなるだけだから。だから、別れて』

千春の言葉を聞いて、千夏も僕に対して同じようなことを言ってたなぁと思った。

「なんで、そんなことを言うの?」

『それを言うのが大事なの。彼女を好きになってほしくないの。千夏を好きになってほしくないの!』

まるで千春の言い方は、自分を好きになってほしくないような感じだった。

「無理だよ、千春」

『えっ!』

「僕は死のうとしていた、彼女を助けた。今さら、千夏と別れるなんて僕にはできない」

『そんなの陸があそこで助けたからって、千夏は死ぬ。それこそ、彼女と付き合うのは変だよ』

よほど千夏を好きになってほしくないのか、気がついたら千春の瞳にうっすら涙が溜まっていた。

『お願い。私は、陸の悲しむ顔を見たくないの』

「はっ!」

千春がそう伝えたのと同時に、僕の視界が明るくなった。

ぼやけた視界の先に、いつも見ている白い天井が僕の瞳に映った。

「夢か………」

千春の夢を見ることは、今まで何度かあった。しかし、こんな夢を見るのは初めてだった。

窓に視線を向けると、外はかなり暗かった。置き時計に視線を向けるとすでに夜中の十二時を過ぎており、日付が変わっていた。

「千春………」

好きだった人の名前を口にしたのと同時に、僕の頬に冷たいひとすじの涙が流れた。

千夏がどうしても僕の好きだった人に似てるせいか、千春の記憶が僕の脳裏によみがえる。
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