思い出はきれいなままで
ストーリー 3
「本当にごちそうさまでした。また明日」
入ってきた時に唖然として足を止めた、レストランの門扉の前で頭を下げた私に、社長は慌てたように私の腕を取った。

「送るから」
その言葉と、手の温もりにドキンとして立ち止まった。

「いえ……大丈夫です。まだ電車ありますので」
作り笑いを浮かべて、私はそう言うと社長に微笑んで見せた。

そんな会話をしていると、音もなく静かに黒の高級車が目の前に停まった。
すぐに運転手さんが降りて、目の前の扉を開ける。

「乗って」
有無を言わさない、意思の強い瞳に私は諦めたように、車の後部座席に乗り込んだ。
すぐそのあとに、無言で乗り込んだ社長から目線を逸らすように、私は窓の外を見た。


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