無愛想な仮面の下
 仕事が終わるといつ頃からか降り出していた雨。
 傘をさし、ため息混じりに帰路につく。

 今日、俺のマンションに。

 佐久間さんに言われた台詞が耳に貼り付いて離れない。

 だからなんだっていうのか。
 このまま帰るだけだ。このまま……。

 ずぶ濡れの人が歩み寄ってきてギョッとする。
 今度は本当の意味で絵になる水もしたたるいい男とはこのことだ。

 髪をかきあげなくとも男前な佐久間さんがそこにいた。

 ただでさえ目立つ風貌で、ずぶ濡れでは目立って仕方なかった。
 けれど本人はそんなのお構いなし。

「マンションが嫌ならどこか出かけよう。
 俺、晴れた日に出かけたことないから。」

 いつものふてぶてしさはどこへやら、可哀想になるくらい捨てられた犬みたいな目で見つめられて心臓がうるさいくらいに音を立てる。

「分かりました。分かりましたから、帰ってシャワーでも浴びてください。
 風邪引きますよ?」

 悲しさが溢れ出しそうな瞳と目があって、まずい……と思っても遅かった。

「雨の日は苦手だ。」

 もたれかかるように頭を肩に乗せられて、それを振りほどけなかった。


「じゃ、ちゃんとシャワー浴びてくださいね。」

 マンションの前まで送り届けるとすがるような目を向けられて顔を背けた。

「私、晴れ女だって言いましたよね?
 晴れた遊園地でもいいですし、今度出かけましょう。
 だから風邪、引かないでください。」

 素直に頷いた佐久間さんが本当に捨て犬みたいで胸がときめいて仕方ない。
 それを見ないようにして、ドアを開けた佐久間さんを部屋の中側に押し込んだ。

 ドアが閉まると同時に力なく壁にもたれかかった。

 反則だよ。あんなの。
 普段が普段だけに……。

 無愛想な佐久間さんが弱っているところなんて初めて見た。

「雨男………か。」

 呟いて気を取り直すと自分も帰り道を急いだ。









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