女探偵アマネの事件簿(下)
女性からの依頼があった翌日。アマネはホワイト・チャペル地区の表通りに来ていた。

ウィルには、ホワイト・チャペル地区の周辺の家を探ってもらっている。

(……あの女性が探してる男性は、恐らく……)

アマネの勘が正しければ、探している男性というのに心当たりはある。

(彼女の敵意のこもった視線と、焦げ茶色の髪に碧眼の瞳。つまり、私と関わりのある人物)

それを考えると、どうしても一人しか浮かばないのだ。

(……ですが、彼が何処にいるのかは分かりませんし。あっちから来ていただくにも……)

「難しい顔して、何を考えているのかな?」

背後から聞こえた声に、アマネはゆっくりと振り返る。

「ああ。丁度良いところに」

「ん?僕のことでも考えていてくれたのかい?」

「ええ。丁度貴方(の行方)のことを考えていたんです。会えて安心しました(探す手間が省けました)」

何故かアマネの言葉から、反響音のような何かを感じたが、フランツはにこりと笑う。

「それなら良かった。今日はデートのお誘いに来たんだ」

金色の髪を後ろで束ねているが、碧眼の瞳はどちらの姿でも変わらない。

「ありがたくお断りします」

「文脈がおかしい気がするのは気のせいかな?」

苦笑いするフランツを見上げ、アマネは続ける。

「貴方は、その髪色の方が似合ってますね。焦げ茶色のはカツラですか?」

「焦げ茶色だけじゃなくて、黒髪も持ってるよ。必要だったからね」

ニコッと笑って見せるフランツに、アマネは納得したように頷く。

「なるほど。だからですか」

「今の一言だけで、察することができるとはね。……で、仮の姿の僕に何の用だい?」

「貴方も察しが良いですね。話が早くて助かります」

お互いに謎を暴く者とかける者。頭の回転の早さは互角だった。

「ある女性からの依頼がありました。貴方を探しているみたいですが、心当たりはありますか?」

「ジルの姿の時、情報収集のために、何人かに声をかけたけど、殆どが女性だからね。心当たりがありすぎるよ」

肩をすくめたフランツに、アマネは考え込む。

(あの女性の思い込みの深さから、フランツ―いえ、ジルとの接触は殆ど無いでしょう)

恐らく、ほんの少しだけ雑談を交わしたか、あるいは何かきっかけがあったのか。

(どちらにしても、フランツの記憶に残ってるかは怪しいですね)

アマネと種類は違えど、興味の無い相手を覚えているほどの記憶力があるかどうかは不明だ。

「……この辺りで最近出会った、または最後に出会った女性はいますか?」

「うーん……ああ。前に君の助手君にイースト・エンドの噂話を聞かせた後、女性とぶつかったよ。ここよりもっと先の道でね」

(……恐らくその女性が、依頼人ですね)
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