【完】キミスター♡
きーんこーん


少し間の抜けた始業ベルの音。
担任は小さな咳払いと共にやってきて、出席を取った。

皆暑そうにやる気のない返事をする。
設定温度がどうなっているのか分からないけれど、これじゃあ暑過ぎて茹で上がってしまいそうだ…。

そんな私達に構わず、担任はまた一つ咳払いをすると、ぐるっと教室を見渡した。


「えー…今日から新しくこの教室の生徒になるやつを紹介する。楢崎…こっちにきなさい」


私は、瞬間にして青ざめた。
まさか、同じクラスになるとは思っていなかったから。

真人は小さく「はい」と応えると爽やかな笑顔を作って、「はじめまして」と転校生らしい挨拶をし出した。

なんで、この学校なのよ。
なんで、この教室なのよ。

なんで?
なんで?
なんで…?


そればかりは頭を巡る。
この世で一番会いたくなかった人物に、再会しなければならないなんて、本当についてない。
同じ空間で同じ空気さえ吸いたくもないのに、真人はまるで自分は人畜無害だと言わんばかりに皆へと笑顔を振りまいている。

…私は騙されない。


そう、固く誓う。

こいつは悪魔だ。
それは身を持って知っている。

今更、優しい人の仮面を付けたって、素の奴の顔は所詮悪魔でしかない。

そんな風に思いつつ丸っきり興味がないと窓の外を見つめていたら、何時の間にか席が決まったのか、小さな拍手が起こった。

それに対して振り向くと、奴は私の半径1m近くの席に腰を下ろして、此方を向いていた。

「…っ?!」

私は慌てて前を向いた。

あんたなんか、無視し続けてやると強く思って。

< 44 / 72 >

この作品をシェア

pagetop