【完】キミスター♡
優しくしないで。
それが本物の愛じゃないなら。
そんなの虚しいだけ…。

私は、泣きそうになるのをぐっと堪えて、カバンを抱き締めながら、帰路についた。

もうすぐ梅雨が開けるんだろう。
蒸し暑さは、焼けるような暑さに変わりつつある。

このまま、緋翠から別れを告げられようとも、それでもいいような気がしてきてしまっている私は、もう終わっているのかもしれない。


「キスなんて、普段はこっちからねだらないとしてこなかったくせに…」


じんじんと熱を持った、軽く触れただけの口唇。
傷を付けてしまったことに後悔はあるけれど、それよりも、悔しさの方が勝っていた。

緋翠の心が見えない。
あんなに近かったはずの緋翠の心が。

それが歯痒くて…私はやりきれない気持ちでいっぱいだった。

「別れ、ちゃうのかな…」

呟いた言葉に、自分で傷付く。
大好きな人と想い合えるなんて、これ以上幸せなことはないと思っていたけれど。


それ以上に。
大好きな人に裏切られることがこんなにも、辛くて痛いことだなんて、知らなかった…。

緋翠は、どうしたいの?
私と別れたいの?
それとも…偽りを抱いたまま…このままでいようと思っているの?

私は溜息を吐いて、とぼとぼと歩いた。


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