妻の知らない夫の時間
第2章
陸男は理性がありました。そうこの事件をおこすまでは。派手ではないがキチンとなんでもこなし、人には親切、先のこともよんでいた。たよりになる聡明な男性だとおもって尊敬さえしていたのだ。
一体どうしちゃったんだろう。6年前の正規の退職までは本当に理想の夫だったのだ。
 少なくとも言い訳したり、自分のやった悪事を正当化したり、ましてや、やったのは自分なのに瑠璃子の悪口をいって瑠璃子のせいにするなんて。時々切れて弱い瑠璃子に暴力までふるうなんて、、、。

そして実にひどいことをくちばしったものだ。
「俺は瑠璃子からにげたかった」だの、
「お前のストレスを背負いたくなかった」だの。
「聖人君子でないから、結婚してても女くらい誘うさ」、だの、
「念書なんかいくらでも書くがすぐわすれるし、捨てちゃえばいいんだ」、それから、
「今は瑠璃子がすきだから、いっしょにいてやるが嫌いになったらサッサといなくなってやる」だの、イッタイドウシタ、大事なネジがいっぽんはずれたのか?もう瑠璃子は毎日がこわくて、不安でしょうがない。あんなにやさしくて正直な夫だったのにあの女たちに会って、180度かわってしまったのだ。
ああいうのを性悪女、悪女というのだろう。悪魔だ。
神様、もしいらしたらヤツラに正当な処罰をあたえてください。

先日、取り敢えず年寄りのほうの女は会うこと承諾してあった。
それも「浮気」という言葉をとりけしたくて自分で積極的に来たのだ。それまでは夫に
「ありがとうございましたー」
といい捨てて、サーッと逃げきって絶対会おうとしなかったのだ。
仕事で何年も世話になり、その後この町歩きで足掛け6年も世話になってながらですよー。
この恩知らず自分の事だけで夫をかばうのをわすれてる。
瑠璃子はこういうのをむしずがはしるというんだろうとおもった。
夫はこの私を裏切ってこういう、低俗な女といたがったのだ。
年寄り女は勿論謝罪など絶対しない風向きだった。
70過ぎのシコメですよ。
それでも「うわき」という言葉だけには反応するなんてわらっちゃいますよ。
彼女は「これって浮気ですかー」
と不安そうに、少し嬉しそうに瑠璃子にきいた。
瑠璃子はプッとふきだしそうなのをこらえて

「ええ、トリプルってのもありますから、、、」


最初からアンタは隠れ蓑としてしか存在していないじゃない。若いほうの女に利用されたのにまだ自分で気がつかないなんてかわいそうなくらいだ。
おろかものめ。
瑠璃子ははじめから老シコメの方は数にいれていなかったのだ。だって若いほうの女がシコメも利用し、夫にちょっかいをだし、その気にさせ、この事件をおこしたのだから、、、。
兎に角、カッコウだけでもシコメは謝罪したので瑠璃子はその場で放免してあげた。
もともと瑠璃子はお年寄りにはやさしいのだ。ボランティアでも老人関係を長年している。
そうしてやはり、肝心の問題おんな、が残った。こいつが本当にワル。それも、そうとうなヤツで、手にあまるのだ。ウッカリすると瑠璃子の心が死んじゃう。
ここは用意周到にやらなければ。

 いろいろかんがえた。しかしメール、携帯、女の夫の携帯、まあこれは女の夫といっているが多分女自身の物だろう。いっぱいアカウントをもっているらしい。
しかしことごとく着信拒否。手紙も懇切丁寧に書いても無視。

自分でいついつまでには連絡しますといっても待ってもまっても連絡なし。陸男と同じだ、おお嘘つきなのだ。言い訳と居直りの繰り返しだ。
やっとショートメールでメールすると、嘘かもしれないが、「母が入院した」言い訳だ。誠意など皆無だ。「どうして一方的に私だけ謝らなければばらない?そっちこそ先の謝れ」ときた。
ダッテそっちの夫は承知していたとほざいていたジャナイノ、貴方?
だったらやはり、まずうちの陸男を部下のくせしてかわいいフリしていいように使いまわしていたアンタこそあやまるべきでしょ。なんてったっていい思い長い間アタシの夫からさせてもらったんだから。償うべきでしょ。
ああ、この女は正真正銘のクズヤロウだ。それでもうちの陸男は約6年間、こんな奴の為に瑠璃子に嘘を一杯ついて夫婦関係も家庭もダメにした。

男はいい初老なのに何でこんなバカなまねができるんだろう。最近、瑠璃子達には孫もうまれたんですよ。他の子供の結婚も決定しているんですよ。
瑠璃子は身体を今こわしている。勿論陸男の失態が原因だが、どうしょうもない。

さてどうやったら自分は生きていけるんだろう。合法的にまだ手はあるのか?
考えた末。陸男の元上司に連絡をとって助けてもらうことにした。
瑠璃子の好きな韓国映画では、悪玉はいくら「タメ」、同年齢と認識している人が反省しろといっても謝罪も後悔もしない。ただ「自分は悪くなかった」といいはるだけだ。
が、がですよ、悪玉の目上の者が出場し、ちょっといい含めるとすぐ納得して頭を下げ簡単に謝っていた。そういう理由だが、今回この方法で本当にうまくいくのだろうか?
でもそれしかない。
 瑠璃子はある日陸男の元上司に電話をかけた。簡単なことでは無かった。当然陸男は自分の恥だから、上司に頼む案に「うん」というはずもなかった。
「ちにおちた」とまでほざいた。それをなんとか説得して電話をかけさせた。
ダッテ地に落とされたのは瑠璃子だからだ。

 最初瑠璃子は自分でかけるから、番号だけ教えてくれればそれでいい、といったのだが陸男が「自分が最初に出て説明しなければ彼にも訳がわからないし、失礼だ」といいはった。
それで瑠璃子も折れた。確かに大人のやることなのに、よく知りもしない単なる元部下の奥さんがいきなり電話をしてきたら
「なにごとかー。失礼極まりないやつだ」とおもい上手くいくものもいかなくなる、かもねー。

 携帯電話はなかなかつながらなかった。瑠璃子は神にもみはなされたかーとおもい、うなだれた。
と、そのときつながったのだ。予定通り陸男はビクビクしながら最近の様子など聞いたりして、前置きの話をしている。瑠璃子が目配せして、陸男がやっと「じつは会社時代の元部下のA、Bとお茶を飲んだり食事をしたりしていまして、実はそのことで今ちょっと問題になっていまして」
といい、やっと「それについて妻が改めてお話があるということなので聞いてやっていただけますかー」
いつになく神妙な陸男の声。

「もしもし、陸男の妻です。会社時代も現在も大変お世話になっております。こんなことでご相談するのは誠に不本意なのですが、ほかに心身になってくださる方も思いつかず、誠に申し訳ありません。実は、、、。」
上司の斉藤さんはまさかの会話に唖然としているようすが電話の向こうでも分かった。

「陸男さんは会社でもそれは誠実で真面目で、、、」
「だから私も結婚したんですよ、、、。人生の集大成の時期になってこんな浮気まがいの事をされたら、結婚生活は本当は37年ですが浮気まがい期間6年引くから31年です、と言ったら流石に陸男さんがっかりしてましたけどね、、、。」
上司に相談は陸男のプライドの事もあるし、瑠璃子としても最後の最後までやりたくはなかった。しかし、あのふてぶてしい女が、
「あら、そちらが最初に謝るべき、なぜ一方的にいわれなくちゃいけないの?意味わかんなーい。」
だのいい年して知的でないことを総じて繰り返すので、もうこれしかなかったのだ。この手段をとらせたことさえくやしい。
斉藤さんはとにかく力になってくれるそうでひとまず安心した。
 男たるもの、皆いっている。「オンナには若いとき、さんざ痛い目にあったからいい年になったら絶対男同士だ、入れてくれと言われても避けるのが賢明だ。」
 それが常識だと思う、それなのに人のいい陸男ときたらこんな時期になってまでまさかの裏切りだ。便利に利用されているだけなのに調子にのって、家庭も妻も全部差しだして、わずかな楽しみの為に女にあげてしまった。
陸男のなかまいわく、「若い時女と遊んでいないからこんなになってこんなことをするのだ」
うーん、それはちょっと違うとおもうな。
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