7・2 の憂鬱
始業よりもかなり早い時刻に出社したわたしは、簡単に部署内の整理をはじめた。
まだだれもいない部屋は、どこかピンとした空気に包まれていて、気持ちいい。
わたしはいつものようにデスクや観葉植物の手入れをしたあと、なにか忘れていないかぐるりと見回した。
ふいに目に入ったカレンダーに、一瞬、ドクンと心臓が大きく鳴る。
今日は、約束の日だったから・・・
わたしはホワイトボードの自分の名前の欄に、枠に比べればなんとなく小さめの文字で、”午後半休” と書いたのだった。
「あれ、白河さん、今日は半休なんだ?」
しばらくしてから出社してきた男性の先輩が、ちょっと意外そうに声をかけてきた。
無理もない、わたしが半休を取るのははじめてだったから。体調不良で欠勤したことはあったけれど、仕事以外で午後半休するなんて、驚かれても仕方ない気がした。
「なにか用事でもあるの?」
先輩社員は、なかなか興味がありそうに尋ねてくる。
すると、やや遅れて部署に入ってきた松本さんが、
「プライベートに口出しはご法度でしょ。セクハラで報告するわよ?」
わたしを庇うように言ってくれた。
もちろん、冗談混じりでだけど。
咎められた男性社員は、あわてて手を振った。
「え、セクハラって、全然そんなつもりありませんよ!」
焦りながら否定すると、わたしに「気を悪くさせたらごめんな」と謝った。
「いえ、そんな、大丈夫ですから」
わたしは恐縮しながらも、この前も似たような会話があったなと思っていた。
松本さんは自分のデスクには向かわず、わたし達の真後ろで立ち止まって、
「今日は何の日か考えてみなさいよ」
と、笑いながら男性社員にヒントを与えた。
「えー、今日ですか・・・?」
彼はカレンダーをちらりと見て、それからホワイトボードに視線を流した。
と、パッと振り返った顔は、何かを閃いたようだった。