7・2 の憂鬱
「あら、それって、もしかして白河さんにですか?」
夕方、外回りから戻ってきたところを、部下の女性社員に話しかけられた。
人通りのあるエントランスで、自分がいくらかの視線を集めていた自覚はあったけれど、そんなのいちいち気にしてはいられない。
僕は立ち止まり、振り返って彼女に応じた。
「お疲れ、松本」
「お疲れさまです。それ、白河さんの集めてるシールですよね?」
僕が握っていたものを指さしながら訊かれたので、「ああ、これ?」と、その紙をヒラヒラと揺らしてみせた。
それはシールを貼るための台紙で、コンビニで一定の金額を購入したらもらえるものだ。いくつか集めて応募すると、外国のキャラクターの非売品アイテムが当たるらしい。
出張で行ったパリでも人気で、行く先々で見かけるキャラクターだった。確か日本ではクリスマス前頃に映画が公開されるはずで、どこか哲学的なそのキャラクターは、大人にも人気があったのだ。
そして僕の恋人である白河のお気に入りでもあって、彼女の自宅には、マグカップだったり文房具だったり、そのキャラクターのものを見つけることができた。
職場にはそういったものを持ち込んでなかったので、僕は、白河の意外な一面を知れたことが嬉しかった。
だから、僕しか知らないと思っていたことを松本がさも当たり前のように話していて、若干モヤッとしてしまう。
いい大人の男がこんななことで嫉妬するなんてと、自分で笑ってしまいそうだけど。