7・2 の憂鬱
ベンチで並んで座ったり、車の助手席だったり、隣というポジションには免疫はあったけれど、こんな、近くで向かい合う状況なんて、めったにない。
わたしは、体じゅうの動揺という動揺が総動員されたように、気がつけば、手のひらが小刻みに震えていた。
片付けセットを持つ手も、戸倉さんに捕まれている手も。
それは、戸倉さんにもすぐに伝わってしまった。
「白河・・・?」
優しかった声が、心配そうに曇る。
わたしはわずかに緩まった戸倉さんの手から腕を引き抜くと、両手で片付けセットをぎゅっと抱きしめた。
そして顔を上げたけれど、どうしても戸倉さんの目は見ることができなくて、
視線は戸倉さんのネクタイでとまったまま、
「わたし、戸倉さんのお仕事の邪魔をしたくないんです」
真っ当な言い訳を口にした。
「いつ白河が僕の仕事の邪魔したの?今言っただろ?僕が、白河と話をしたいんだって」
「お話なら、デスクで伺います。だから仕事以外では、なるべく控えた方がいいかと・・・」
「もしかして、噂を聞いた?」
静かな問いかけが上から降ってきて、わたしは、反射的に見上げてしまった。
そのわたしの表情が答えになったのだろう、戸倉さんは、
「噂なんか気にしてもしょうがないだろう?」
わたしの頭に、そっと触れながら言ったのだ。
久しぶりの感覚に、わたしの心臓はさらにドキリと跳ねあがってしまう。
・・・・確かにその通りだけど。
確かに、周りから陰口たたかれたり、噂なんかたてられても、いちいち気にするなんて時間の無駄だし、
そんなの気にするわたしではなかったけれど・・・・
その噂のせいで、戸倉さんの評判に傷を付けてしまうのだ。
わたしのせいで。
改めてそう思った瞬間、わたしの心はひとつの方向めがけて暴れだしたのだった。