7・2 の憂鬱




「すみません、今日はお昼なしで出ないと間に合わないんですよ」

外回りの支度をする手を止めて答えると、松本さんは「え、今日もダメなの?」と、ちょっとオーバーに返してきた。

「・・・すみません」


申し訳ないという思いは嘘じゃないので、その表情は自然と作られる。

すると松本さんは、

「ま、仕事じゃしょうがないけど」

と、渋々ながらも納得した様子だった。


けれどそのとき、松本さんのスマホが震えると、その顔は一気に明るくなった。

「あ、戸倉さんからだわ」

それはもう、どうしようもなく嬉しそうな松本さん。

わたしのことなんか一瞬で忘れたみたいに、テンション高く電話に出る松本さんに、わたしは、またみぞおちが苦しくなる。


「・・・それじゃ、わたしそろそろ行ってきます」

わたしは、二人の会話が耳に入る前に、急いでその場を後にしたのだった。


いつかみたいに、嘘の言い訳を使ったわけではないのに、後ろめたさのような感情が否定できない。

それは、わたしが、松本さんに嫉妬してしまったせいだろう。


あのあと、松本さんと戸倉さんがどうしたのか、どうなったのかは知らない。

けれど、最近の機嫌よさそうな松本さんを見ると、不穏な関係になってないのは一目瞭然だった。


今だって、松本さんに直で電話を掛けるだなんて、わたしの知ってる戸倉さんでは考えられないから。

戸倉さんは、自分に好意を持っている相手に対して、変に期待を持たせるような態度はとらない人なのに。

もしかして・・・・


かすかに過った想像を、頭を振って、やり過ごす。


例えあの二人に何か進展があったのだとしても、わたしには関係ないことなんだから。


今さら戸倉さんが好きだと気付いたって、どうしようもないんだから。


暗くなってしまいそうな思考をなんとか励ましながら、わたしは外回りに向かったのだった。










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