7・2 の憂鬱
「でも、松本さんは、戸倉さんから直接聞いたって・・・」
ぽそり、とひとり言のように呟いた。
「うん、昨日何人かで話してるときにそんな話題になったんだ。たまたま松本がその中にいたんだよ」
戸倉さんの説明を聞いて、おおげさでなく、わたしはホッとした。
心の中の何かが、スルスルとほどけていくようだった。
・・・・けれど、戸倉さんがヨーロッパ勤務になるというのは覆らないのだ。
わたしは無意識のうちにペットボトルを足に押さえつけていて、その手が、今にも震えだしそうだった。
「・・・・いつ、向こうに行くんですか」
知りたくないけれど、さっきみたいに別の誰かから聞かされるよりはずっといい。
そう奮い立てて尋ねたけれど、どうしても声は沈んでしまった。
なのに、そんなわたしの様子を目にしても、戸倉さんの機嫌良さは変わらないのだ。
「早ければ来月かな」
浮かれてるようにも感じ取れる声。
来月・・・・
わたしは、戸倉さんに気付かれないよう、下唇を噛んでから
「・・・じゃあ、送別会、急がなくちゃいけませんね」
絞り出すように、そう言った。
すると戸倉さんは大げさだよと笑ったのだ。