7・2 の憂鬱
「白河・・・」
戸倉さんは、信じられないというように唖然としていたけれど、やがて、キュッと顔つきを引き締めた。
まるで意を決したように。
けれど、一旦制御をやめたわたしの感情は、とまらなかった。
「正直に答えたら、また戸倉さんと一緒にいられるんですよね?戸倉さんのことをどう思ってるか、答えは、好きです。ちゃんと答えました。だから―――」
「白河、食事は後回しでいい?」
「え?わ、」
わたしの人生ではじめての告白を遮ったかと思えば、戸倉さんは、いきなり手を握ってきた。
そしてわたしの返事を待たずに、そのままぐいぐい歩き出したのだ。
腕を強く引っ張られながら歩く姿勢は、ほんの少し不安定になってしまうけれど、戸倉さんに触れられたことが嬉しくて、ハイヒールの歩きにくさとか、肩にかけたバッグがずり落ちてきそうだとか、そんなことはどうでもよくなった。
「あの、戸倉さん、どこに、行くんですか?」
戸倉さんに手を引かれるのは構わない。むしろ嬉しいのに、斜め後ろから見た彼は、どことなく焦っているようにも見えて。
すると戸倉さんはこちらを振り向かないままで、
「僕の部屋」
短く答えた。
「え・・・?」
さすがに、わたしはギクリとして足がとまってしまった。
戸倉さんの部屋って、いきなり・・・?
突然過ぎる展開に、頭が真っ白になる。
嫌じゃない。嫌じゃないけれど、あまりのスピードに怯むわたしがいたのだ。
戸倉さんは強引にでもそのまま歩き続けることができたのだろうけど、優しい彼は、そうはしなかった。
わたしに合わせて、立ち止まる。
それから、ゆっくりとわたしを向いて、
「白河が選んで」
まるでわたしを試すように、まっすぐに告げた。
「白河の気持ちをちゃんと聞いた今、もう僕は我慢する必要はない。だから、今度は白河が選んで」