極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
「アルフレート殿下はほとんど館に戻りませんから、そんな事だろうと思っていました」

それに輿入れして間もない頃、家令がシェールの知らない客人と話しているのを聞いてしまった事がある。

その時の会話で、アルフレートには別の館が有るのだと知った。
余程鈍くなければ察しはつく。

マグダレーナはシェールの言葉に驚いていたようだったけれど、しばらくするとなぜか顔を赤くして怒り出した。

「お前、何で平気な顔をしているの? 夫に恋人が居て悔しくないの?」

「別に悔しくは……元々好きになって結婚した訳ではないので。嫌がらせでもされたら困りますけど、今のところは平和です。何も問題ないですよ」

「何なのそれ? 考えられないわ。私だったら絶対嫌よ! 夫になる人には私だけ好きで居て貰わないと駄目だわ」

「そ、そうなんですか?」

「そうよ。アルフレート殿下に会ったら、色々と聞こうと思っていたのよ。場合によっては説教もして差し上げるつもりだったけど、お前のその態度を見てたら馬鹿らしくなったわ!」

(そんな事を企んでたの?)

それにしても……マグダレーナの剣幕に今度はシェールが呆気に取られた。

アルフレートに顧みられない現状を知ったらマグダレーナは意地悪く笑って、いい気味だと喜ぶと思っていたのに、実際は不実な夫に対して腹を立てている。

マグダレーナにとって、夫の誠実な愛は重要で必須なものらしい。

シェールと違い、政略結婚が当たり前の世界で育った、生粋のお嬢様のマグダレーナの反応とは思えなかった。

かなり、意外だ。

「シェールを見ていると政略結婚なんて絶対に嫌だと思うわ。私は自分で素敵な夫を見つけてそれでユジェナ家を継ぐから!」

マグダレーナが気合を入れて決意宣言をする。

(それこそ無理だと思うけど)

山より高いマグダレーナの理想に叶う男性が実在するとは思えない。

(ユジェナ侯爵が家出に気付いて迎えに来てくれたらいいけど)


そんな事を考えていると、マグダレーナの高い声がした。

「ねえ、馬車を止めて! この辺りを散策するわ」
「え……外に出るのですか?」

今はどの辺りまで来ているのだろう。

確認しようと急ぎ窓の外を見たシェールは、小さく呻いた。

最悪な事に、ノーラの診療所と森への入り口近くにいたのだ。
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