極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
しばらくの沈黙のあと、女性が一歩前に進み出て言った。

「分かりました。あなたに従い準備を整えて出直して参ります」

「出直さないのが一番だけどな」

「……あなたの名前は?」

女性がカレルを見定めるようにして問いかける。

「カレル。家名は無い」

「そうですか……分かりました」

女性は頷くと、ドレスの裾を翻して部屋を出て行った。



診療小屋に静けさが戻ると、ノーラは薬作りを再開した。

けれど、外が気になるようで時折窓の外に目を向ける。

「まだ、いるね。なんだったっけ? ユジェナの令嬢? 王都から来たのかね」

「ユジェナ侯爵だ。最近何かと目立っている貴族で、家族は王都の屋敷で暮らしているはずだ」

「へえ……王弟妃殿下の姉とか言ってたね」

「王弟妃の義理の姉だ。義妹を訪ねて来ているのだろう」

「仲の良い姉妹なんだね。義理の姉って事は母親が違うんだね」

「ああ。あの令嬢の母親は貴族出身の正妻だが、王弟妃の生母は平民出の妾だという噂だ」

ノーラは驚いたようで、薬から目を離してカレルを見つめて来る。

「まさかそんな事があるはずないだろう? 半分平民だったら王弟妃になんてなれる訳ないじゃないか」

「まあ、いろいろ事情があるんだろう」

「ふーん、お貴族様の世界はよく分からないね。それにしてもあんたはやけに詳しいね」

ノーラは探るような目でカレルを見つめる。

「……情報収集しているからな」

カレルは居心地が悪そうにそっぽを向いた。

「まあいいや。なんで貴族の情報を集めているのかは聞かないでおいてあげるよ。けどシェールを泣かせるんじゃないよ!」

「ああ……分かってる」

カレルはそう呟くと、小さな溜息を吐いた。
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