姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③



「……っく!」
 
彼女は何とか悲鳴を呑みこんだが、その血の匂いにエリアルはぞわりと殺気立った。


「――小夜子!」

「おや、そっちの人間に当たってしまいましたか」

青年は、つまらなそうに言った。

まるで、悪びれていない様子である。


「……事情は分かりませんが、そんな人間、いつまで抱えてるおつもりです? 

重いでしょう? 

さっさと落としてしまえばいいじゃありませんか」
 


青年は、柏手を打った。
 
すると、彼の背後からヒュンッと幾筋もの光が飛び出し、二人を襲った。
 

エリアルは、片手で小夜子を抱き変え、装着したままだった鍵爪で、その光を弾き返した。

その刹那、彼は金属のぶつかるような音を聞いた。


(――あれは、矢か?)
 

弾かれ、操作を失った『矢』の姿を、彼は一瞬捉えた。
 

奇妙な形の『矢』だった。

『⇔』だ。
 

矢羽が無く、上下に矢尻が付いている。


< 284 / 317 >

この作品をシェア

pagetop