クリティカルロマンス

彼には一ヶ月ほど前に、部屋の鍵を落として困っているところを助けてもらったことがある。
それ以降、顔を合わせれば軽く会話を交わす仲に発展していた。
いつも笑顔で爽やか。人に好印象を与える人だ。


「こんばんは」
「どうかしたの? 元気がないみたいだけど」


よそゆきの笑顔で返したのに、青木さんにいとも簡単に見抜かれてしまった。


「ちょっと疲れただけです」


人懐っこい顔で運転席から私を見上げる彼にそう返す。
悩み疲れているのは事実。


「それじゃ、気分転換に夜の海でも見に行こうか」


青木さんは一度停止させたエンジンを再びかけ直した。

海? 青木さんとふたりきりで?


「そんな顔しないでさ、ちょっとくらいいいんじゃない? ほら、乗りなよ」

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