さようなら、ディスタンス。

屈折





東京に来てからのほとんどが、曲作りとスタジオ練習とライブとバイト。それで精一杯。大学にはほとんど行っていなかった。



『ちゃんとラインできる?』


『するよ』


『電話も?』


『頑張る』



地元を出る時に彼女とした約束も、疲れと忙しさのせいで守ることができなかった。


自分のダメな部分を直すのは難しい。改善する努力はするから、もう一度やり直すことはできないだろうか。







「はい、時間です。ペンを置いてくださーい」



チャイムが鳴り、答案用紙が回収される。



今は大学の試験期間。僕は取れそうなもの5つだけをピックアップしてのぞむことにした。


きっと今の試験は、ぎりぎりいけたはず。



「なーなーどうだった? 俺たぶん単位取れたわ」


「俺は余裕。ってかあの教授、出席半分以下の人は全員落とすらしいよ」


「まじ? 俺休んだの3回くらいかなぁ。よっしゃいける!」



――え、まじすか?



同じ試験を受けた人たちの会話が耳に入り、さーっと血の気が引いた。


全15回の講義中、僕が出席したのは最初と最後の2回だけ。


僕にはそもそも試験を受ける権利がなかったらしい。



7:10
未織『おはよう』

8:20
未織『光くん起きてる? 今日朝一授業だよね?』

16:15
未織『おーいw』

18:20
『今起きた』

18:22
未織『大学は!?ヽ(`Д´)ノ』



コーヒー缶片手にスマホ画面を眺める。


彼女からのメッセージは、リアルタイムだとおせっかいに感じることもあったけど、改めて読み返すと愛おしいものに思えた。


さすがにやばいな。


残っているのは比較文化論と現代史と英語と……ああ、どれもほとんど勉強していない。


親にバレたら仕送り減か、最悪、地元への強制送還もありえる。


未織の言う通り、もっとまじめに大学行っとけば良かった、と今さら後悔中。



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