千一夜物語
黎が牙たちと共に屋敷に帰還すると、今か今かと待っていた澪は、黎の腕に抱えられている女を見て足を止めた。


「女の……人…?」


「玉藻、俺の部屋に連れて行く。必要なものがあれば言え」


慌ただしく玉藻の前や牙たちが走り回る中、黎は縁側を歩いて自室へ向かった。

その後ろをちょこちょこ小走りについていった澪は、目は閉じているものの同族と思える位に気が強そうな美女を大切そうに抱えている黎に何が起きているのか問うた。


「黎さん、その人は…」


「今は忙しい。後でいいか」


「う、うん」


神官衣を着た女の左胸に大量の出血があり、澪はそれを心配しながらも障子を閉じた黎の自室の前に佇んでいた。

――腕まくりをした玉藻の前は、澪の肩を押してどかせて中へ入ると、床に寝かされた神羅の神官衣を鋭い爪で裂いた。


「これは…ひどいですわね」


露わになった神羅の左胸には抉られたような傷跡があり、赤紫に変色して膿んでいた。

伊能に用意させた神酒の蓋を取って傷口にかけると、気を失いながらも神羅の身体が大きく跳ねた。


「黎様、荒療治になりますから押さえていて下さいまし」


「分かった」


傷口に手拭いを押し当てた玉藻の前が何事かを呟きながら目を閉じて意識を集中させた。

するとその手拭いが傷口と同じ赤紫色になり、毒が体内から排出されていくのが分かった。


大がかりな術なのか、気力と体力を持っていかれて汗が噴き出る玉藻の前の肩を掴んだ黎は、玉藻の前を強いていることを分かっていながらも、懇願する他なかった。


「玉藻、神羅を助けてくれ」


「大丈夫ですわよ黎様、わたくしは白狐の九尾なのです。これしきで倒れたりはしません。さあ、身体を押さえていて」


心配そうな表情をしてくれるだけで十分。


「あと、終わった後に撫で回してくれたらもっと頑張るんですけれど」


「いくらでも撫で回してやる」


やる気が漲り、金色の目を細くして光らせながら、次々と手拭いを代えて毒の排出に勤しんだ。
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