混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 そこにあるのは『あの夜』の出来事、イライザが酒に酔い、海兵にくってかかったあの夜、いったい自分とガブリエルには何があったのか。

 ガブリエルが、『責任をとる』と言い出したあの一件、どうしても思い出せないその事実を、リリは知っているのだろうか。

「あ、あのねっ、結局、聞きそびれてるんだけど、あの夜、私、何をしたのかな」

 ああ、やっと聞けた。イライザは思った。覚えていない以上、第三者が教えてくれる話しか、記憶をたどる縁は無いのだ。

 並ぶベッドに腰をおろし、向かい合いながら、イライザはリリの手をとって尋ねた。

 まっすぐに向けられるイライザからの視線、迫力に気圧されて、リリは一瞬目をふせて、それからまっすぐリリを見つめ返した。

「あの夜の事は……」

 結論から言うと、リリの話は、イライザの不安を払拭するものでは無かった。

「……ゴメン、その、ガブリエルが、君を連れて二階にあがってから、私も一緒に介抱はしていたんだけど……」

 そう言いながら、リリが視線を逸らす。

「私も、けっこう酔ってて……」

 介抱の為に階段を数往復した後、椅子でうとうとと眠り込み、翌朝は、練兵の為に夜明け前には兵舎の方へ戻ったという。

「目が覚めて、あわてて出て行ったから、その後何があったかは……見て、ないんだ」

 あの後、仕事に行ったのか、と、イライザはリリの酒豪ぶりに驚いた。

 だとすると、なおさらガブリエル自身に確かめなくてはならないという事だ。

「リリは、私の事、ふしだらだって思う?」

 上目遣いで尋ねられて、リリは女ながらにどきりとした。

「それは、記憶が無い事が? それとも、目が覚めた時に男性と同衾していたから?」

「……ごめん、なんか、私、無神経だったかもしれない」

「あー、ちょっと待て」

 もうしわけなさそうに言うイライザに対してリリが言った。

「私の気持ちについては、私のものだから、そういう、余計な気遣いはいらない、こんな事を言われたら、怒るかもしれないけど、私はイライザ・クリフトンの書いた文章が好きだった、その事は、今も変わりない、……だからね」

 リリは、振り切るように一度目を閉じて、ぱっちりと開いて言った。

「あなたが、本当にガブリエルの事が好きならば、私の気持ちへの配慮は要らない、それは、なんというか、違うと思うから、……それに、私も……」

 リリは語尾を濁す。
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