混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 本来であれば、船中くまなく見てまわりたいところだったが、どうせキャビンの外に出るのならば、必ず女装しなくてはならない時に限ってにしたいと思っていたアレンは、ひとまず、のびのびとベッドに横たわった。

 一方、ガブリエルと二人きりになったイライザは、どうにも落ち着かない気持ちで並んで歩いていた。

 先ほどから、ガブリエルは、イザベラ・クリフトンの記事について熱心に語っていた。かつて、旅行記の依頼にサンシャイン・ワールド誌をおとずれた時のように。

「よく、私の書いたものだとわかりましたね」

 それは、なんという事のない、広告だった。しかし、幼い頃から旅に憧れ、遠くまで見て回りたいと思い続けたイライザの素直な気持ちを綴ったものでもあった。

「外の世界を見て回りたいという意志と憧れが、瑞々しい感性で綴られていました、もちろん、私も仕事がら、旅はします、しかし、私はどちらかというと乗り物の性能や、機構についての興味が強くて、旅する目的地についてまでは、あまり考えた事が無かったのですよ」

 ガブリエルの言いようを聞きながら、そういうところは、アレンととても気が合うのでは無いか、と、イライザは思った。

「そんなあなたが、実際に旅をし、見知らぬものを見て、感じて、どんなものを書かれるのか、とても興味がわきました」

「……ありがとうございます」

 イライザは、書いたものを率直に、しかも男性に褒めてもらう事は初めてで、うれしいようなくすぐったい気持ちになった。

「もちろん、実業家として、あなたの文章を読んだ人たちも、自ら旅に出たい、という気持ちになってくれたら、それはそれで願ったりなのですがね」

 苦笑するように微笑むガブリエルにイライザは好感をもった。

 そして、すぐに、ぽーっとなりそうな自分を、イライザは戒めた。

 相手は一流の実業家、人を手のひらで転がすのが上手な人種、イライザ、いいえ、イザベラ、調子にのってはダメ。

 彼にとって、きっと女性は手軽な火遊びの相手にすぎないのだから。

 万が一、好意をもったとして、後で泣きを見るのは自分なのだから。
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