混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「……少なくとも、私は貴族の生まれではありません、ですから、貴婦人ではありませんよ」

 耐えられず、ついにイライザが口を開いた。

 イライザを取り囲んでいた三人の女達は、そんな事はとっくに知っていたとでも言うように下卑た笑いを浮かべている。

「あなたがたが私をどう思おうとかまいませんが、ひとつだけ、サンシャイン・ワールド誌がゴシップ誌だとして、みなさんはどうしてそれをご存知なんですか? 慎み深い貴婦人方に縁のあるような高尚な話も、もちろん書いてはおりますが、そういった記事はご覧になられていないので?」

 イライザの言葉は、否定も肯定も許さない響きがあった。

 ゴシップ誌である事を認めれば、そうした読み物を読んでいる事を認めたようなものであるし、かといって、高尚な記事が掲載されている事を認めれば、ゴシップ誌の記者としてのイザベラ・クリフトンを否定する事になる。

「……ッ、生意気なッ!」

 言葉に詰まった美女が口にするには、少々下品な言葉が出た所で、狙いすましたように声をかけてきた者がいた。

「おや、ご婦人方が、こんなところでひとかたまりに、紳士諸君はどうされたのか、こんな美女たちを放っておくなんて」

 軽口を叩きながら近づいてきた長身の青年は、金色の髪に青い瞳。言葉は浮ついているが、見た目だけならば、どこかの王子のような容貌をしている。

「さあ、あちらには、お茶もお菓子ももありましたよ、このようなところで、貧相な女性を相手に声をあらげたりするのは、美しい皆様方には不似合いです」

 美青年のお追従に気をよくしたというよりは、この場から立ち去りたい気持ちに助け手が現れたといった調子で、三人の女は、最後にキツい眼差しをイライザに向けて、美青年と共にその場を立ち去ってくれた。

 イライザは、ほっとして、突然出現した美青年に感謝しながら、約束の相手を待たせてはならないと、足早に船室の方へ向かって歩いて行った。
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