混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
12)失われた一夜
 イライザは、喉の乾きで目を覚ました。目を開けると、まだ早朝のようで、薄明るい部屋の空気はどことなく冷たい。

 一瞬にして、夜の出来事に思いの至ったイライザは、今自分の置かれている状況を把握しようと、自分のいる場所を見回した。

 下着姿でベッドに横たえられていたイライザの周りには、布が敷かれ、よく見ると洗面器も置いてある。

 ……ドレスを、どこへやっただろう、と、記憶を探り、はた、と、記憶が途切れる間際の事を思い出した。

 よろけ、ふらつき、我慢ができずに、イライザは、嘔吐した。

 恐らく、ガブリエルに向かって。

 ごく近い距離にいたというのは覚えている。

 自分を気遣うような心配そうな顔も。

 しかし、酔いつぶれ、理性を失い、乱暴者とはいえ、見知らぬ相手に頭から酒を浴びせかけた挙句、目の前で吐いた女をガブリエルがどう思ったか、考えるのが怖かった。

 ……やってしまった。

 イライザは、肌触りのよい寝具につっぷした。
 洗いざらしのそれは、いい匂いがした。

 そこには、吐瀉物の匂いは含まれない。

 つまり、誰かがイライザの身を拭き清めてくれたという事だ。

 誰だろうか、と、イライザは寝ぼけた頭で考えた。

 少なくとも、今、自分が寝かされている場所は、宿泊予定のホテルでは無い。

 調度類を見ると、どこかの民家の来客用の寝室のように見える。

 専門の宿泊施設に比べると、物が多い。

 通常、宿泊施設に本棚は置かないであろうし、けれど、誰かの個人部屋というほどには私物らしいものが少ない。

 途方に暮れているところで、ふいに扉が開いた。

 イライザは、あわてて自分にかけてある寝具を引き寄せた。

「……すまない、もう、起きているとは思わなくて」

 扉を開けたのは、さきほどのイライザの落ち込みの原因、ガブリエル・イザードその人だった。
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