混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 イライザが、おそるおそる階段を降りると、そこは、『転がる子豚亭』の店内だった。厨房からは、食欲をそそる、香ばしい香りが漂う。卵を焼いているのか、油の香りと、良い音がした。

 店内は、昨日の騒ぎが嘘のように整っていた。

 厨房から、ポットとカップののったトレイを持ったガブリエルが現れて、テーブルに置いた。

「あの、昨晩は……、すみませんでした」

 ガブリエルが着席しないうちに、イライザが深々と頭を下げた。

「いえ、そんな、私の方こそあんな……」

 あんな? と、ガブリエルの言葉に違和感をおぼえて、イライザが顔をあげると、真っ赤になっているガブリエルがいた。

「……え?」

 真顔でイライザがガブリエルを見ると、二人の視線が真っ直ぐにぶつかった。

「あの、私、昨日は、その、記憶が……」

 イライザが言いかけると、ガブリエルはあからさまにうろたえて、後ずさった。

「記憶、は、どのあたりまで、おぼえてますか?」

 ガブリエルは、どこか必死そうな様子でイライザに尋ねた。

「その……イザードさんの、服に、私が、その」

 イライザが恥ずかしさで言葉を濁すと、ガブリエルは、ため息をつき、残念なような、困ったような、複雑な顔をして見せた。もちろん、顔は赤く染まったまま。

 しかし、その、複雑な表情の変化の後、くるりと踵を返し、店内のテーブルやら椅子やらにあちこちぶつけつつ、こけつまろびつ、再び厨房へ戻っていった。
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