混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
16)ララティナ港最後の夜
 ホテルに戻ってから、アレンはどうすべきか少し悩んだ、旅券類は自分自身の名前にしてある為、本来の姿に戻って船に乗る事は可能だが、いろいろ面倒な事が多そうだ、と。

 かといってまた女装したいかといえば……。

 イライザが戻り次第相談しようと思ったものの、またしてもイライザは戻らず、やきもきしていたアレンの元に、今度は使いの者がやってきた。

 客室係に呼び出されて、ロビーに海兵がいたことに驚いたが、それがイザベラからの使いでもっと驚いた。

「あいつ、何かやったんですか!?」

 驚きのあまりアレンは言葉をとりつくろう余裕が無かった。

 やって来たのは、海兵といってもまだ若く、少年のような優しげな顔の青年で、制服を着ていなければどこかの貴族の三男坊という様子だった。

「いえいえ、そうではなく、イザベラ・クリフトン様は、今夜、リリ・ドミニス閣下の私邸に滞在される事になりまして、それで、イライザ・アトキンソン嬢をお迎えに……」

「イラ、イザベラが、そのように『言って』いるんですか? ちなみに使者の方がおっしゃる、リリ・ドミニス氏とは……」

「はい、自分は、ドミニス少将直下の者で、オーウェンと申します、オーウェンとお呼び下さい」

 背筋を伸ばし、はきはきとしゃべる様子は、いかにも軍人らしいのだが、どこか微笑ましいというか、よくやったねーと、髪をくしゃっとしたくなる衝動にかられるところが、大型犬のようで好ましい。

「では、オーウェン君、僕をこの、リリ・ドミニス氏の私邸へ案内してもらえるかな、ここからどれくらいかな?」

 アレンは、にっこりと、しかし、嫌とは言わせない威圧感をもって、オーウェンに言った。

「いえ、自分は、イライザさんをお連れするように申しつかってきたのですが」

 言いよどむオーウェンにかまわず、アレンは外へ出た。

 イザベラとイライザは同一人物だ。イザベラがイライザを呼ぶはずは無い。

 何かが、イライザの身に起きているのだ。アレンの気持ちはざわめいていた。
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