ドッペル少年少女~生まれる前の物語~
サク・リヴィンス
十九世紀。

イギリス北部のヴィルド町。その山奥に屋敷を構える貴族がいた。

「サン?……サンー?」

サク・リヴィンス。リヴィンス家の長男であり、次期当主である彼は、今年十三才になった。

そんな彼は今、自身の片割れを探している。

「……サンー?」

「サク様」

静かな厳しさを含んだ声が聞こえ、サクは後ろを振り返った。

「………フギル先生」

サクにとって、一番嫌いな教育係りが、無表情にサクを見下ろしていた。

「何をなさっているんですか?次のレッスンがあるでしょう?」

「……ちょっと、妹の様子を見ようと思いまして」

「サン様なら、ただいまダンスのレッスン中ですぞ」

鼻の下に綺麗に生え揃った髭を撫で、フギルは言った。

「あ……そう、ですか……」

あからさまに肩を落としたサクを、フギルはジッと見つめた。

「………サク様は、まだご自分の立場を理解されていないようですな。……それ………も………か」

後半に呟かれた言葉は、サクには聞こえなかった。

「分かっています。僕は、この家の次期当主です。ですから、ちゃんと勉強もしてるし、レッスンだって欠かしていません。でも―」

「分かっているのなら、これ以上は何も言いません。お行きください」

フギルはそれだけ言うと、サクに背を向ける。

(つまり、僕自身には興味ないってことか)

彼ら教師は、自分を当主に添える為だけに雇われた存在だ。だから、サクにも愛情など無いのだろう。

サクは手を握り締めると、廊下を進んでいく。

(それにしても、いくら当主になるためだからって、僕達を引き裂く必要ある?昔は何でも一緒にやらせてくれたくせに)

父と母は、時を重ねるごとに、サクとサンを引き離した。男と女では学ぶことが違うのだと教えられたが、サクは納得していない。

(……いや、引き離す必要はあったんだ。父様は僕の気持ちに気付いてるのかもしれない)
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