東雲天音の欠片(番外編)
貴族のパーティーって言うのは、やっぱりどこも派手だな。なんて思いながら、俺は黒いスーツを身に纏う。

どうやら女装は免れたらしい。が、俺は隣に立っているアマネをジト目で見る。

「…………何でお前、その格好なんだよ」

アマネはいつもの、白いシャツと茶色のブレザー。それに黒いズボンだ。

「………動きやすいので」

せっかくのダンスパーティーだって言うのに、何しに来たんだか。

「何お前、事件でも期待してんの?殺人事件なら、俺が命がけで阻止するから諦めろ」

「違います。……ただ」

アマネは何かを言いかけて止めた。ま、無理強いしたところで無駄だろう。それに、アマネらしいからいっか。

適当に料理つまんで帰ろう。そう思った時、パタパタと足音がする。

足音の主に顔を向けると、アマネが俺の後ろに隠れた。珍しくげんなりしたような顔で。

「ア・マ・ネ・ちゃぁぁぁぁぁん!!」

「ぐはっ!!」

少し太―いや、ふくよかな体型のおば―ご婦人がやって来た。俺を突き飛ばして。

例えるなら、何かの安売りで群がる主婦のような勢いだな。てか、誰だよ!

「……………お久しぶりです。グロー婦人」

「グロー婦人?え?グローって、聞き覚えあるんだけど」

グローの姓を持つ人は、俺達の知り合いに一人いる。

「…………グロー警部の奥様ですよ」

俺の心を読んだかのように、声が疲れたアマネが答える。目も若干死んでんな。

「私が一年以上旅行に行ってる間に、こんな格好いい恋人ゲットするなんて!さすがは私が見込んだ子ね!!けれど、その格好は何なの?!」

ビシッと音がしそうなほど勢い良く、グロー婦人はアマネを指差す。

しかし、中々強烈そうな人だな。

「………動きや―」

「女の子がそんな格好でいいと思ってるの?いい!女として生まれたからには、沢山のお得な特権を手に出来るのよ!つまり、男よりも女の方がおしゃれのレパートリーは多いの!それを生かさないでどうするのよ!」

アマネの言葉を阻み、なおかつ両肩掴んでゆさゆさ揺すっているグロー婦人に、俺は控えめにだが声をかける。

「あ、あの。それくらいにして―」

「こうなったら私が!アマネちゃんを立派なレディに変身させてあげるわ!!ついていらっしゃい!」

俺の言葉も阻み、グロー婦人はアマネの腕をガシッと掴む。アマネは女の人相手には、あまり強気に出れないらしく、ずるずると引きずられていった。

「……………うわー」

俺はその言葉しか出てこず、暫くここで突っ立っていた。
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