東雲天音の欠片(番外編)
そして、二人はささやかな結婚式を挙げ、グロー夫妻とバルレット夫妻に祝福された。

あれから長い年月、アマネは何度も諦めそうになった。

けれども、その度に励まし、支えてくれるウィルのお陰で、彼女は前を見つめていられた。

そして―。

「母さん!」

「どうしました?」

「この暗号難しすぎますよ」

ドアをバーンと開け入ってきた少年は、丁寧な言葉遣いとは裏腹に、中々豪快そうな性格だった。

「そうですか?それくらいは簡単に解けませんと、探偵にはなれませんよ?」

「………むー」

頬を膨らます我が子の頭を撫でながら、アマネはカリカリとペンを動かす。

「母さん、何を書いてるんですか?」

真っ黒な瞳は、アマネにそっくりだが、茶色の髪は父親譲りだ。

「……まだ、秘密ですよ」

アマネは人差し指を口元に当てて笑う。

「お、こんなとこにいたか」

「父さん!」

ウィルの姿に気付いた少年は、ダダダダっと音をたてながらウィルに飛び付く。

ウィルは少年を抱き止め、そのまま持ち上げて肩車をした。

「お前、口調は丁寧なくせに、やんちゃだよな?」

「確実にあなたに似ましたよ」

「口調はお前の真似ばっかりしてたから、お前に似たな」

アマネとウィルはお互いを見合い、微笑んだ。

「父さんと母さん、何で笑ってるんですか?」

両親の顔を見て首を傾げる我が子に、アマネもウィルもただ微笑むだけだった。

彼女が、あまり長く一緒にいれなかったが、幸せだった時間。

彼女の本の一部に綴られた物語は、時を越え今も読まれているだろう。
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