ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――
恋のはじまり
 気が付いたら同期で一緒に入社したアイツに、いつの間にか恋をしていた。しかも相手はストレス発散と言わんばかりに、くだらないことで私をからかってくる嫌なヤツ。

 これってどう考えたって、望みが薄い恋――。





『君ってバリバリ仕事をこなします感を出してるのに、実際は全然だよね。やる気があるのは認めるけど空回りしてるし、ミスも多いしさ。ここのところだけど――』

 自分なりに一生懸命になって仕事に取り組んでいたある日、先輩から告げられた一言にガックリしてお昼休みに屋上に足を運んだ。ひとりきりでベンチに座り、お昼ご飯を食べる。当然だけど、箸が全然進まなかった。

 すると、こんなときこそ逢いたくない人物が目の前に現れた。

「お前ってさ、本当に化粧っ気ないよな。もう少し周りの女性社員を見習って、お洒落に目覚めてみたらどうなんだよ?」

 小馬鹿にした顔で告げられたセリフに、思いっきりカチンとくる。

「残念でしたー! これはナチュラルメイクって言うんですー。それなりに時間かけて、きちんとお洒落してるんだってば。そんなことも分からないアンタに、いろいろ言われたくないんですけど!」

 思いっきり低レベルの言い合い。だけど、からかってくるタイミングにあれっ? って思った。

 それは仕事でミスして落ち込んでいるときだったり、今回のように指導係の先輩にお小言をもらったときにされていることに、やっと気が付いた。

(これっていったい、どういうことなんだろう? もしかして、私のことを気にしてるとか?)

 なぁんていう甘い期待を打ち崩すような意地悪なことを、アイツは毎回言ってくる。

 落ち込む私を励ますというより激怒させる男に、最初は苛立ちしかなかった。それなのに、アイツの仕事が忙しくて言い合いのタイミングが流れてしまったときは、先輩に注意されたことで落ち込むよりも、やり合えないことのほうに寂しさを感じてしまった。

 そしたらいつの間にかアイツのことが気になって、思わず目で追ったり、用もないのに自分から話しかけてみたり。そうこうしているうちに、どっぷりと恋に落ちていた。

 正直なところ、アイツの見た目は全然好みじゃない。野暮ったい髪形の下にある両目は吊り上り気味の一重で怖いし、頬もちょっとだけこけている。そのせいで、私と同い年に見えない老け具合だ。

 それなのに恋した途端に見え方までがらりと変わっちゃうなんて、笑うに笑えない。

 野暮ったい髪形も、整髪剤をつけてまとめればそれなりに見えそうだし、私をからかったときの笑った瞳は目がなくなって、可愛らしさがあるように感じる。身長は175センチくらいあるので、むしろ問題なかった。

 そんな彼の好きなものは甘さが控えめのお菓子だと小耳に挟み、だったら作ってやろうじゃないのと考えた。ほんの少しでいいから、見返してやりたいって思ったから――。
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