ドS上司の意外な一面
意外な料理の下準備
 30分後、待ち合わせの場所に現れた正仁さんの両手は、大きな荷物で塞がれた状態だった。

 時間が経ったお蔭で苛立った気持ちもなくなったからこそ、自分から話しかけてみる。

「すごい買い物の量ですね」

「自宅になかったら困ると考えて、必要なもの全てを買い込んでしまいました。すみません、君の荷物を持ってあげられなくて」

(この大荷物を使って、何を作ってくれるんだろう――)

「私の荷物はそこまで重いものじゃないですし、片手で持てるから大丈夫です」

「では、空いてる片手をいただきましょうか」

 言うなり左肘を差し出してきたので、そっと腕を通した。

 腕を組んだだけの接触だったのに、布越しから伝わってくる正仁さんの熱が愛おしく感じる。年末年始のお休みでずっと傍にいたせいかな、たった30分の間離れただけでも恋しくなってしまうなんて、思いもしなかった。

 そんな事を考えながら彼に視線を飛ばしてみると、それにすぐ気がついて微笑みかけてくれた。

「何か物言いたげですね、どうしたんですか?」

 言ったら笑われるかな。でも同じ気持ちでいてくれたら嬉しいんだけど――。

「たった30分だったんですけど、正仁さんと離れて寂しかったなぁって……」

「そうでしたか。一緒に買い物をしたら、時間がロスすると考えた上での行動だったんです。君がそんな風に思っていたなんて予想外でした。すみません」

 ――やっぱり、正仁さんは寂しくなかったんだな。

「ひとみを慰めようにも、両手が塞がっているのがつらいですね。一旦立ち止まりましょう」

「えっ? わざわざ立ち止まらなくても」

 大勢の人の流れを断ち切るように正仁さんは立ち止まり、両手の荷物を足元に置いた。

「どれを買おうかチョイスに迷ったときに、いつも隣にいる君に話しかけていたのを、ひとりで買い物をしていて思い出しました。それは物足りなさというか味気のない感じというか、とにかくこれからは一緒に買い物をっ」

 手に持っていた買い物袋を足元に投げ出して、正仁さんにぎゅっと抱きついた。

「一緒に買い物に行きましょうね!」

「約束です……」

 たくさんの人が行き交う中を柔らかく微笑んだ正仁さんが、唇にキスをして約束をしてくれた。それは一緒にいるとき限定だけど、だからこそこれからの買い物が楽しみになったのは言うまでもない。
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